大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 昭和53年(行コ)27号 判決

津市阿漕町津興二四一六番地

控訴人

太田英郎

同所同番地

控訴人

太田志げ

右両名訴訟代理人弁護士

村田正人

石坂俊雄

中村亀雄

名古屋市中区三の丸三丁目三番二号

被控訴人

名古屋国税局長 梅沢節男

右指定代理人

細井淳久

大橋哲雄

梅田義雄

藤塚清治

青敏博

森下博

原田正一

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴代理人らは、「原判決を取消す。被控訴人が控訴人太田英郎に対し、昭和五〇年四月一六日原判決別紙物件目録(一)記載の建物につきなした差押は、これを取消す。被控訴人が控訴人太田志げに対し、同年四月二六日付でなした、税額九二万三五〇〇円を同年五月二六日までに納付すべき旨の第二次納税義務の納付告知は、これを取消す。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人らは主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張と証拠関係は、左記のとおり付加するほか、原判決の事実摘出と同じであるから、これを引用する。

一  控訴人らの主張

控訴人太田英郎は本件土地を取得したことはなく、したがってこれを他に譲渡しうる立場になかったのであって、同控訴人については譲渡所得税の実質的な課税要件が充足されていない。

なお、同控訴人は、本件確定申告書を、原判決別紙物件目録(三)の・(一)(二)記載の土地の売買に関するものと誤解し、住所・氏名・生年月日のみ自書し押印したほかは白紙のまま提出したところ、津税務署職員柏木寿太郎がこれに虚偽の事実を記載したのである。したがって同控訴人は、本件土地の譲渡所得税については、納税申告の意思がなかったものである。

二  被控訴人の主張

本件確定申告書の提出に関する控訴人らの当審における主張は、これを争う。

なお、控訴人らは、実体法上の課税要件の欠を出張するが控訴人太田英郎の納税申告はすでに適法に完了しているのであるから、法定の更正の方法によるほかは、その納税義務を否定することはできないというべきである。

理由

当裁判所も原審と同じく、控訴人らの本件請求はいずれも棄却すべきものと判断する。その理由は、原判決が理由として説示するところと同じであるから、これをすべて引用する。

ちなみに、控訴人らは、譲渡所得の不存在をも、本件差押、ひいては第二次納税義務の納付告知の取消し事由として主張している。しかし、いわゆる申告納税制度の許においては、納税申告が法の定めた過誤是正の方法を経ることなく確定した以上、納税義務者は、右申告が不存在または無効と認められないかぎり、もはや所得誤認等の瑕疵を理由として納税義務を争うことは許されないと解するのが相当であり、第二次納税義務の納付告知を受けた者もまた、納付告知の取消訴訟において本来の納税義務者の納税義務の存否または数額を争うことはできないのである。(最高裁昭和三八年(オ)第四九九号同三九年一〇月二二日第一小法廷判決・民集一八巻八号一七六二頁、同四八年(行ツ)第一一二号同五〇年八月二七日第二小法廷判決・民集二九巻七号一二二六頁参照)。そして、控訴人太田英郎がなした本件納税申告が不存在または無効といいがたいことは、前認定(引用部分)の本件確定申告書の提出経過から明らかであるから、控訴人らのこの点に関する主張も採用することができない。

よって、原判決は相当であるから、民訴法三八四条に従い本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき同法九五条・八九条・九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 村上悦雄 裁判官 小島裕史 裁判官 春日民雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例